シマアジ (縞鯵) shimaaji edomae
May 23, 2015 16:34:04 GMT 9
Post by 管理人 on May 23, 2015 16:34:04 GMT 9
姉がOLになって初めて迎えた6月、
「ボーナスもらったから、シマアジのおすしを食べに行こう!」
と、私を誘ってくれました。
会社の人が連れて行ってくれたすし店で、とても美味しいシマアジのすしをご馳走になったから、
そこで食べようという嬉しい誘いでした。
私はまだ学生で、シマアジを食べたことはありませんでしたが、
釣りが趣味で魚には詳しかったので、シマアジがどれほど貴重な魚なのかを知っていました。
姉は、電話でシマアジがあるかどうかを確認した上で予約し、その日の夕食は2人ですしを食べることになりました。
連れて行ってくれたすし店は、銀座の高級店。
出されたシマアジは、もちろん天然物、房総(千葉)の上物です。
二人とも、シマアジをたくさん食べたので、すごい値段になっただろうと思います。
でも、とても美味しかった。
こんなに美味しい魚があるのか、と驚きました。
何かと私を可愛がってくれた姉は、私が築地通いをする以前に、二人の娘を残し、病気で亡くなりました。
私のすしを姉に食べさせることは出来ましたが、シマアジで恩返しすることは出来ませんでした。
でも、築地通いをしていた頃、すしの日にはいつも近くに住む2人の姪が食べに来てくれたので、
姉に食べさせるようなつもりで、2人にシマアジを握りました。
そして、とても喜ばれました。
シマアジは、我が家の大の人気ネタ(タネ)でした。
父もシマアジの握りが何よりも好きだったので、
生きている間に、食べられる間に、出来るだけ食べさせてあげたいと思いました。
だから、他の魚介類以上に、シマアジの仕入れには気合いが入りました。
1.仕入れ(築地場内)
淡白な白身の最高級魚はホシガレイ、青ものの最高級魚はシマアジです。
値段は、マダイやヒラメよりもずっと上です。
残念ながら、流通しているシマアジのほとんどが養殖物か蓄養物。
天然物として流通しているものの多くも、蓄養物です。
蓄養物は、天然物を獲って育てたものだから、元天然物ではありますが、
それを天然物として流通させるというのはひどい話です。
高級店以外の東京のすし店で、天然物として出されるシマアジも蓄養物が多いはずです。
(蓄養物と知らずに使っている場合もあると思います。)
初夏になると、築地場内のそこら中の仲卸しが、シマアジを扱います。
私は、産地で締めた上物のシマアジを探していました。
でも、あちらこちらに並ぶシマアジを見ていても、小さなもの以外には、天然物らしきシマアジが見つかりません。
シマアジを並べている仲卸しの方に、
「天然物を探してるんですけど、ありませんか?」
と聞くと、
「ここにあるのは天然物ということで入荷してくるんですけどね。でも全部蓄養ですよ。」
と、とても誠実な答えが返ってきました。
「シマアジ?天然物?いいのがあるよ!」
と、知らない仲卸しの従業員が声をかけてきたこともあります。
見せてもらうと、絵にかいたようなバリバリの養殖物。
未だにこんなひどいヤツがいるのか、と驚きました。
築地場内で見た、最悪の仲卸しでした。
私の知る限り、ほとんどの仲卸しは誠実ですが、中にはひどい仲卸しもありますので、気をつけてください。
いくら探しても見つからないので、活魚を仕入れることにしました。
産地としては、天然物が漁獲されると、破格値のつく活けでの出荷に躍起なのです。
ちなみに、活けのシマアジも、そのほとんどが養殖物か蓄養物です。
活魚でお世話になっていた仲卸しは、トップクラスの仲卸しでしたから、天然物の活けのシマアジを扱っていました。
私は、最高のシマアジを確実に手に入れたかったので、
その仲卸しのご主人に具体的な条件を提示し(値段の制限無し・最高値での買い取り)、
おかげさまで素晴らしい活けの天然シマアジを手に入れることが出来ました。
「今日は入荷がありませんでした。」
とか、
「気に入ってもらえそうなものがなかったから、やめておきました。」
ということも度々ありましたが、漁獲量を考えるとやむを得ないことでした。
シマアジの旬は、夏から秋にかけてで、名産地での漁獲のピーク(といっても極少)は夏です。
1.5~2キロくらいが特に評価の高いサイズ。
私の好みは、1.5キロ前後です。
大きすぎると大味で、小さすぎるとシマアジらしさに欠けるので、最低1キロは欲しいところです。
入荷が極めて少ないため、サイズに幅を持たせ、
仲卸しのご主人には、目安として1~2.3キロを指定し、後はご主人の目利きに委ねました。
名産地は房総半島(千葉)、特に勝山(鋸南町) ・館山など内房南部、最南端の野島崎周辺(外房南部)
ならびに、勝浦など外房南東部で素晴らしいものが漁獲されます。
私が築地通いをしていた頃は、既に幻に近かったのですが、入荷があった時は必ず競り落としてくださり、
その日築地で一番のシマアジを使わせていただきました。
漁獲量は極少で、美味しさも値段も別格です。
次いで紀州(和歌山)や房総以外の関東近海のものです。
ただし、伊豆諸島周辺のものは、島ものと呼ばれ評価は下がります。
九州や四国からの入荷もありましたが、評価は更に下でした。
仲卸しも、高級すし店・高級日本料理店も、上物のシマアジの仕入れに命がけです。
でも、私も命がけでした。
グルメごっこなどしているつもりは、さらさらありませんでした。
もう長くは生きられない父のために、絶対に誰にも負けたくありませんでした。
仲卸しのご主人のおかげで、素晴らしいシマアジが手に入ると、涙がにじみました。
時間の経過と共に衰えていく父の姿が、父の主治医から聞かされる絶望的な話が、頭の中を駆け巡りました。
そして、父に対して、こんなことしかしてあげられない悔しさが、こみ上げてきました。
父は何も言わなかったけれど、父が自分の人生の最後に見たかった私は、こんなことをする私ではなかったはずです。
もっと立派な私を、父は見たかったはずです。
でも、こんなことしかできない……
家族の前では、いつも明るく楽しく振る舞っていたけれど、
本当は絶望的な思いに耐えながら築地に通い、すしを握っていたのだと、今だからこそ素直に認めることができます。
この文章を書いていても、涙があふれてきます。
あの頃の私のすしは、とても悲しいすしでした。
愛情と絶望と後悔のすしでした。
2.仕込みと供し方
シマアジは、尾のあたりにマアジと同じくゼイゴ(ギザギザの部分)がありますので、
尾の方から包丁を前後に動かしながら切り取り、包丁でコケを引いてから3枚におろし、
腹骨をすき取ってから、背側と腹側に切り分け、包丁で薄皮を引いてから使います。
・ゼイゴとコケを引く際は、身を傷つけないよう気をつけてください。
・太い中骨の形状に注意して、骨に身が付かないように卸してください。
・薄皮はギリギリに引き、ヒカリを身表面にしっかりと残してください。
シマアジのすしにも、塩又は塩と酢で軽く締めたもの、ヅケ、皮側を炙ったものなどがありますが、
天然で鮮度の良いもの(臭みが出てくる前のもの)は生が一番です。
シャリとの相性も、とてもいいです。
活け締め当日は旨味が充分に出てこないので、腹側の身を使い、
2日目(料理人時代を除き、すしは2日連続)に、より美味しい背側の身を使いました。
2キロ級のものは、3日目に背側の1フシを夕飯のおかずとして、刺身にすることもありました。
※シマアジは青魚なので、足は早い方です。
時間が経ち過ぎると、素敵な香りがクセのある臭みに変わりますので、気をつけてください。
切りつけてからワサビを挟んで握り、煮切り醤油をつけて供します。
シマアジの握りは、ワサビの良し悪しがはっきり出るすしです。
可能な限り良いワサビを使ってください。
「ボーナスもらったから、シマアジのおすしを食べに行こう!」
と、私を誘ってくれました。
会社の人が連れて行ってくれたすし店で、とても美味しいシマアジのすしをご馳走になったから、
そこで食べようという嬉しい誘いでした。
私はまだ学生で、シマアジを食べたことはありませんでしたが、
釣りが趣味で魚には詳しかったので、シマアジがどれほど貴重な魚なのかを知っていました。
姉は、電話でシマアジがあるかどうかを確認した上で予約し、その日の夕食は2人ですしを食べることになりました。
連れて行ってくれたすし店は、銀座の高級店。
出されたシマアジは、もちろん天然物、房総(千葉)の上物です。
二人とも、シマアジをたくさん食べたので、すごい値段になっただろうと思います。
でも、とても美味しかった。
こんなに美味しい魚があるのか、と驚きました。
何かと私を可愛がってくれた姉は、私が築地通いをする以前に、二人の娘を残し、病気で亡くなりました。
私のすしを姉に食べさせることは出来ましたが、シマアジで恩返しすることは出来ませんでした。
でも、築地通いをしていた頃、すしの日にはいつも近くに住む2人の姪が食べに来てくれたので、
姉に食べさせるようなつもりで、2人にシマアジを握りました。
そして、とても喜ばれました。
シマアジは、我が家の大の人気ネタ(タネ)でした。
父もシマアジの握りが何よりも好きだったので、
生きている間に、食べられる間に、出来るだけ食べさせてあげたいと思いました。
だから、他の魚介類以上に、シマアジの仕入れには気合いが入りました。
1.仕入れ(築地場内)
淡白な白身の最高級魚はホシガレイ、青ものの最高級魚はシマアジです。
値段は、マダイやヒラメよりもずっと上です。
残念ながら、流通しているシマアジのほとんどが養殖物か蓄養物。
天然物として流通しているものの多くも、蓄養物です。
蓄養物は、天然物を獲って育てたものだから、元天然物ではありますが、
それを天然物として流通させるというのはひどい話です。
高級店以外の東京のすし店で、天然物として出されるシマアジも蓄養物が多いはずです。
(蓄養物と知らずに使っている場合もあると思います。)
初夏になると、築地場内のそこら中の仲卸しが、シマアジを扱います。
私は、産地で締めた上物のシマアジを探していました。
でも、あちらこちらに並ぶシマアジを見ていても、小さなもの以外には、天然物らしきシマアジが見つかりません。
シマアジを並べている仲卸しの方に、
「天然物を探してるんですけど、ありませんか?」
と聞くと、
「ここにあるのは天然物ということで入荷してくるんですけどね。でも全部蓄養ですよ。」
と、とても誠実な答えが返ってきました。
「シマアジ?天然物?いいのがあるよ!」
と、知らない仲卸しの従業員が声をかけてきたこともあります。
見せてもらうと、絵にかいたようなバリバリの養殖物。
未だにこんなひどいヤツがいるのか、と驚きました。
築地場内で見た、最悪の仲卸しでした。
私の知る限り、ほとんどの仲卸しは誠実ですが、中にはひどい仲卸しもありますので、気をつけてください。
いくら探しても見つからないので、活魚を仕入れることにしました。
産地としては、天然物が漁獲されると、破格値のつく活けでの出荷に躍起なのです。
ちなみに、活けのシマアジも、そのほとんどが養殖物か蓄養物です。
活魚でお世話になっていた仲卸しは、トップクラスの仲卸しでしたから、天然物の活けのシマアジを扱っていました。
私は、最高のシマアジを確実に手に入れたかったので、
その仲卸しのご主人に具体的な条件を提示し(値段の制限無し・最高値での買い取り)、
おかげさまで素晴らしい活けの天然シマアジを手に入れることが出来ました。
「今日は入荷がありませんでした。」
とか、
「気に入ってもらえそうなものがなかったから、やめておきました。」
ということも度々ありましたが、漁獲量を考えるとやむを得ないことでした。
シマアジの旬は、夏から秋にかけてで、名産地での漁獲のピーク(といっても極少)は夏です。
1.5~2キロくらいが特に評価の高いサイズ。
私の好みは、1.5キロ前後です。
大きすぎると大味で、小さすぎるとシマアジらしさに欠けるので、最低1キロは欲しいところです。
入荷が極めて少ないため、サイズに幅を持たせ、
仲卸しのご主人には、目安として1~2.3キロを指定し、後はご主人の目利きに委ねました。
名産地は房総半島(千葉)、特に勝山(鋸南町) ・館山など内房南部、最南端の野島崎周辺(外房南部)
ならびに、勝浦など外房南東部で素晴らしいものが漁獲されます。
私が築地通いをしていた頃は、既に幻に近かったのですが、入荷があった時は必ず競り落としてくださり、
その日築地で一番のシマアジを使わせていただきました。
漁獲量は極少で、美味しさも値段も別格です。
次いで紀州(和歌山)や房総以外の関東近海のものです。
ただし、伊豆諸島周辺のものは、島ものと呼ばれ評価は下がります。
九州や四国からの入荷もありましたが、評価は更に下でした。
仲卸しも、高級すし店・高級日本料理店も、上物のシマアジの仕入れに命がけです。
でも、私も命がけでした。
グルメごっこなどしているつもりは、さらさらありませんでした。
もう長くは生きられない父のために、絶対に誰にも負けたくありませんでした。
仲卸しのご主人のおかげで、素晴らしいシマアジが手に入ると、涙がにじみました。
時間の経過と共に衰えていく父の姿が、父の主治医から聞かされる絶望的な話が、頭の中を駆け巡りました。
そして、父に対して、こんなことしかしてあげられない悔しさが、こみ上げてきました。
父は何も言わなかったけれど、父が自分の人生の最後に見たかった私は、こんなことをする私ではなかったはずです。
もっと立派な私を、父は見たかったはずです。
でも、こんなことしかできない……
家族の前では、いつも明るく楽しく振る舞っていたけれど、
本当は絶望的な思いに耐えながら築地に通い、すしを握っていたのだと、今だからこそ素直に認めることができます。
この文章を書いていても、涙があふれてきます。
あの頃の私のすしは、とても悲しいすしでした。
愛情と絶望と後悔のすしでした。
2.仕込みと供し方
シマアジは、尾のあたりにマアジと同じくゼイゴ(ギザギザの部分)がありますので、
尾の方から包丁を前後に動かしながら切り取り、包丁でコケを引いてから3枚におろし、
腹骨をすき取ってから、背側と腹側に切り分け、包丁で薄皮を引いてから使います。
・ゼイゴとコケを引く際は、身を傷つけないよう気をつけてください。
・太い中骨の形状に注意して、骨に身が付かないように卸してください。
・薄皮はギリギリに引き、ヒカリを身表面にしっかりと残してください。
シマアジのすしにも、塩又は塩と酢で軽く締めたもの、ヅケ、皮側を炙ったものなどがありますが、
天然で鮮度の良いもの(臭みが出てくる前のもの)は生が一番です。
シャリとの相性も、とてもいいです。
活け締め当日は旨味が充分に出てこないので、腹側の身を使い、
2日目(料理人時代を除き、すしは2日連続)に、より美味しい背側の身を使いました。
2キロ級のものは、3日目に背側の1フシを夕飯のおかずとして、刺身にすることもありました。
※シマアジは青魚なので、足は早い方です。
時間が経ち過ぎると、素敵な香りがクセのある臭みに変わりますので、気をつけてください。
切りつけてからワサビを挟んで握り、煮切り醤油をつけて供します。
シマアジの握りは、ワサビの良し悪しがはっきり出るすしです。
可能な限り良いワサビを使ってください。